星野泰啓理事長より(10)

 

社会福祉法人よるべ会 理事長星野泰啓

 

「3人のレンガ職人」という、仕事に向かうモチベーションや使命感についての例え話を聞いたことはありませんか。
 話を要約すると――。汗をかいて働いている3人のレンガ職人がいる。各々に何をしているのかを尋ねると、一人目は「親方に言われたから」、二人目は「金を稼ぐため」、三人目は「みんなの教会をつくっている」と答えた。そこから、目的をもってモチベーション高く働く三人目は素晴らしい人材であり、そのような人材がそろった会社は従業員の定着率、生産性の向上につながる、と教えている。
私も長い間そう思ってきた。一人目は志のない駄目な人。二人目はお金だけが目的のつまらない人。三人目は使命感のある価値の高い働きの人。だから三人目の職業人をめざせ!と。(この話はイソップ寓話と聞いていたが、実は日本の某中学校の校長先生が生徒に送った話だったらしい)
しばらく前から私の思いは変わった。この話、ややもすると三人目以外は駄目な人、つまらない人と決めつけられ、社会には不要な人と烙印を押されて排除の対象とされてしまいかねない。これは正に優生思想につながる考えとなり、津久井やまゆり園事件と重なって見えてしまう。
しかし、今、私たちの社会で求められている「共生社会」「多様性」という視点で見つめ直してみると、三人のレンガ職人の三者三様の働く姿を通して、それぞれがその時々の状況の中で精一杯に暮らしをつくって生きている価値ある姿と受けとめることができる。そして、職場づくりというならば「お互いの違いをベースに相互に影響しあい、共に必要な存在として絆を深めながら成長しあう関係を築き続けていくこと」が大切にされることになる。“一つだけを正とし、他は間違いとして排除につなぐことは絶対にやってはいけない”と私は思う。
“みんな違ってみんな同じ”という「インクルージョン」、多様さに触れて多様であることを考え、互いの多様さを分かち合おうとする「多様性社会」、人と人が競うのではなく、張り合うでもなく、補完関係で折り合いをつける関係づくり、そんな寛容な社会に暮らす一人でありたい。

(以上、よるべ会広報誌「かわらばん」 2022年新春号より転載)

2022年01月20日